「楽譜が読めていないようなんです」
そういうご相談を受けることが多いこの時期。
譜を読む、読譜(どくふ)とはどういうことなのかを考えるために、私のレッスンの中で実際に起こっていたことをご紹介してきました。
~これまでの読譜力についてのブログ~
さて、Wちゃんが間違いだらけで弾いた初見の曲。
楽譜には、いろんな情報が詰まっています。
たった4小節の短い曲とはいえ、その中から読みとらなくてはいけない情報は実にたくさんです。
私は楽譜にある情報の中から、ひとつひとつの要素を、それぞれ取り出してWちゃんに教えることにしました。では、情報の中のひとつひとつの要素とは、具体的にどんなことでしょう。
まずは①音名(どれみ)、そして②リズム(音の長さ)、③指番号 ④拍子 ⑤調 ⑥アーティキュレーション(音をつないだり切ったりするスタッカートやスラーの記号) ⑦強弱記号。 と、最低でもこれだけあります。
まず初めにやったのは、音名(どれみ)の読み間違いを直すことでした。この段階ではリズムの間違いについては言わないでおきました。
因みにWちゃんは写真のような音符カードは、一応読めていました。でも、楽譜になると読み間違ってしまうんですね。
音の読み間違いの多い人は、楽譜の読み方がとても大雑把です。一音一音きちんと読んだりはしません。なんとなくこのぐらい音が離れていそうとか、音が上がってるからここらへんの鍵盤、とか、そんなアバウトな読み方で弾いているようです。自分の出している音が何の音か意識しないで弾いているので、間違いにも気がつきません。このアバウトな読み方を直すには、音名を言いながら弾かせるのが一番です。
Wちゃんに弾いてもらって、間違った音のところで止め、「これ、何の音?」「これは?」と音名を言わせます。間違って弾いている認識がないので「あれっ?・・ あれっ?」と言いながらでしたが、ひと通り音の確認が済みました。
次は音名を言いながら弾いてもらいます。これはわりとすぐに正しく弾けるようになりました。
さて、次はリズムです。
リズムとは、音の長さのこと。何拍分音をのばすか。それを表しているのが4分音符や2分音符、8分音符といった音符の種類です。
例えば下の写真。
「どれみ」と楽譜に書いてあって、最初の「ど」は白丸の二分音符、「れ」と「み」は黒丸の4分音符です。白丸2分音符は2拍分のばすので「どー・れ・み」となります。
Wちゃんは、この音符の種類、つまり音の長さを実に適当に読んでいたのです。
というよりも、音に長さがあることを意識しないで音名だけを読んで弾いていました。
休符の記号も、あることなど気がつかないかのように弾いていました。
多分この原因は真似弾きです。
Wちゃんが前に通っていた大手音楽教室のグループレッスンでは、専門的に言うと摸奏(もそう)、聴奏(ちょうそう)という方法で曲を弾かせていきます。
先生が
「どれみー」と歌いながら弾いたのを真似して「どれみー」と弾く。これが摸奏です。
先生が
「みふぁそー」と歌わずに弾いたのを聴いて「みふぁそー」と弾く。これが聴奏です。
これが真似弾き、聴き覚えで弾くということです。
この方法は字も読めず、楽譜も読めない幼児に、グループレッスンの中で弾くことを教えるのにはとても良い方法です。耳(音感)もとてもよくなります。
ただし、聴いたメロディーをそのまま弾けばよいので、リズムなど意識しなくても正しい音の長さで弾けるようになり、楽譜から音の長さ、つまりリズムを読みとる、という習慣がつきません。
聴き覚えでレッスンを進めるのは、Wちゃんが通っていた大手音楽教室だけでなく、有名なSメソードも同じです。
ヴァイオリンで有名なSメソードは、音楽も母国語を覚えるように耳から覚えるのがよいとして、CDを聴かせ、ピアノもそのとおりに弾かせるのだそうです。
プロの演奏を聴いて真似させるのですから、音感が育つだけでなく、表現力も育ちます。
そういう意味では素晴らしいメソードですが、こと読譜についてはとても問題のある教え方だと思います。
さて、Wちゃんの話に戻ります。
私は、Wちゃんにリズム打ちをしてもらいました。
「タン / タン タタ タン / ターアー ウン/・・・」
そしてこれもまた、音名の時と同じく正しいリズムを意識するために、この「タン タタ・・・」を言いながら弾いてもらいました。
さっき正しい音で弾けるようになったので、リズムがわかれば、あとはそんなに難しくないはずでした。
ところが、Wちゃんは「タン タタ ・・・」を言いながら弾いたとたんに、どれみの音が違う音になってしまったのです。
音名とリズム、このふたつを同時に意識して弾くということは難しいことなのですね。
それでも何回か練習して、音とリズムが正しくなったところで、さらに指づかいを直すために、指番号を言いながら弾かせると、今度はリズムが全然違うリズムになってしまいました。
音名を意識するとリズムに意識がいかなくなり、リズムを意識すると音名に意識がいかなくなる。指番号に意識を向けると、こんどはまたリズムに意識がいかなくなる。
同時に複数の違う要素に意識を向けるということがいかに難しいことかということです。
さらに、この曲が3拍めから始まるアウフタクトであったため、拍子を意識するために拍の数を(3拍子の1・2・3)を言いながら弾く、までやりたかったのですが、その日はもうここで初見練習をおしまいにしました。本当は強弱(表現)も意識して弾かせたいのに、とてもとてもそんなどころではありませんでした。
~続く~